長い時が流れたのち。人々が立ち入らぬ森の奥深くに、
伝承に語られる「人と天族が暮らす理想郷」を彷彿とさせる村、
「天族の杜(もり)」があった。
グリンウッド大陸に「穢れ(けがれ)」が広がるようになって久しいこの時代に、
天族の杜はいまだ穢れの影響を受けずにいた。
この地で拾われた子「スレイ」は、幸いにも周囲の慈しみに恵まれ、
またある理由から外界と隔絶した生活を送ってきたことにより、
穢れのない純粋な心をもつ青年として成長していた。
スレイが村の外に出る事を禁じられていたのは、
外界に存在する穢れによって生まれた魔物「憑魔(ひょうま)」の餌食とならないようにするため。
高い霊応力(れいのうりょく)を持っていたスレイは憑魔に狙われやすい。
村の住人は憑魔の恐ろしさをスレイによく語り聞かせていたため、
スレイもその禁を破ろうとはしなかったのである。
天族の杜は外界と遠く隔てられた、いわば聖域である。
そんな限られた地地でスレイができる遊びといえば、
偶然手に入れた書物「天遺見聞録(てんいけんぶんろく)」を読むことと、
村の近くにある古代遺跡の探検ぐらい。
スレイは遺跡をたびたび訪れ、やがて古代の出来事に興味を抱くようになっていった。
天遺見聞録にある「太古の時代、人は天族を知覚し共に暮らしていた」という伝承も
決して夢想話ではなく真実ではないかと考えるようになり、
遺跡で何かを見つける度に古代の世界に想いを馳せる日々がスレイの日常となった。
そんなスレイが飽きもせず遺跡を探検していたある日、
彼は遺跡の崩落に巻き込まれ、地下へと落下してしまう。
遺跡地下から抜け出すため歩き回るスレイは、気を失って倒れている一人の少女を発見。
少女は自分と同様に崩落に巻き込まれたようで、スレイはすぐさま手を差し伸べた。
少女は大きな怪我もなく無事意識を取り戻したものの、手荷物を全て失い、
帰り方も分からなくなってしまった様子。
スレイは一旦自分の村へ来ないかと誘いをかけ、少女を連れて遺跡を脱出した。
なんとか天族の杜へと帰還したスレイ。
はじめは警戒の様子を見せていた少女も、スレイの心遣いに触れて次第に緊張を解き、
自分があの遺跡を訪れた理由、十数年前から世界各地で人智の及ばない災厄が起きている外の世界の実情、
そしてアリーシャという己の名をスレイに告げるのだった。