憎しみ、妬み、悪意といった人の心が生み出す負のエネルギーのこと。
誰もが発する当たり前の現象であるが、それが異常に積み重なると憑魔を生み出してしまう。
天族に対してはその身を冒す毒のような力となる。
強い穢れの影響を受けた人や動植物が変化した魔物。
霊応力を持つ者は憑魔の本性を正しく認識できるが、
一般人には単に凶暴化した人・動物、または意思を持ったように動く竜巻、雷といった異常現象にしか見えない。
「災厄の時代」と呼ばれる現在の世界は穢れに満ちており、
山や森だけでなく街道や街中にまで、人知れず憑魔が溢れ始めているのである。
ついに、ハイランド王国軍とローランス帝国軍が戦闘を開始してしまう。
両軍は、それぞれグレイブガント盆地の南北に布陣。
周りを岩石で囲まれた逃げ場のない地で、真正面から衝突した。
一斉に放たれた矢の雨が宙で交差し、敵陣地を狙って投石器が巨岩を打ち出す。
隊列を組んで突撃した槍兵が敵を貫き、突き上げられ、雄叫びと共に振り回す剣が、
鉄を潰し、血と肉を撒き散らす。
怒りと恐怖と憎悪が渦巻く戦場は、穢れの坩堝と化し、兵士たちは次々に憑魔へ変化していく。
やがて彼らは、剣ではなく爪牙で敵を引き裂き、獣のように互いを喰らい始める。
災害や戦争以上の災厄が、生まれようとしていた。